調査団報告2024年1月

生物多様性への脅威:特定外来生物アライグマ

アライグマの若い個体(撮影:a0963)

小さい頃は可愛らしい姿をしているアライグマですが、その見た目とは裏腹に凄腕のハンターです。雑食性で多種多様な生き物を捕食してしまう侵略性と、トウモロコシやスイカ等の農作物を食い荒らす産業被害があることから、特定外来生物に指定されています。生物多様性ニュースレター80号では、「アライグマによる水辺の生態系への影響」と題して、アライグマの特徴や生態系への脅威について紹介しました。そこで今号では、紙面の都合上ニュースレターでは取り上げることができなかったアライグマの侵入状況や生態系への脅威についてご紹介します。

侵入状況

環境省の調査により、アライグマは北海道から鹿児島県にかけての日本のほぼ全域に分布拡大していることが分かっています。北海道、埼玉県、兵庫県等ではほぼ全域に侵入、岩手県や高知県等では一部地域でのみ確認、また沖縄県では全く確認されていないなど、都道府県によって侵入状況は様々です。

(国立環境研究所 侵入生物データベースより:https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/image/map/10150d.jpg

ここで千葉県に着目してみると、地図が真っ赤っかです。まるでチーバくんを想像させるかのような配色です。つまり、アライグマが既に千葉県内の全域へと分布拡大していることが分かります。

なお、千葉県内でのアライグマの生息状況に関する詳細が気になる方は、「第 2 次千葉県アライグマ防除実施計画」をご覧ください。

「捕食」による在来種への影響

アライグマは小型哺乳類、鳥類(例えば、トラツグミ)、爬虫類(例えば、ニホンイシガメ)、両生類(例えば、トウキョウサンショウウオ、ニホンアカガエル)、魚類、貝類(例えば、サッポロマイマイ)、甲殻類(例えば、ニホンザリガニ)や昆虫等の幅広い分類群の在来種を捕食することが知られています。今回は、捕食事例が報告されている在来種について、以下にいくつかの例を紹介します。

トラツグミ(a1331)

アライグマの胃内容物からトラツグミの羽毛が出てきた事例があります。これは生きたトラツグミを食べたのか、または死骸を食べたのかは分かりませんが、日本に定着したアライグマが鳥類を食べることを示す直接的な証拠です。

ニホンアカガエル(撮影:a0285)

両生類はアライグマによる捕食被害を最も受けやすい分類群の1つです。これは、アライグマが餌場とする水辺付近に生息することや、繁殖期に密集して繁殖するために被害を受けやすいからです。

写真のニホンアカガエルをはじめ、アズマヒキガエル、シュレーゲルアオガエル、モリアオガエル等の無尾類、トウキョウサンショウウオやセトウチサンショウウオ等の有尾類等の両生類を捕食することが分かっています。

「競合」による在来種への影響

アライグマは共通する餌資源や隠れ家等を巡って競合し、似たような生態の在来種を追いやってしまうことが指摘されています。

クサガメを咥えるタヌキ(撮影:a0826)

例えば、在来種のタヌキと食性が近いため、餌資源を巡って競合する可能性が指摘されています。

また、隠れ家となる樹洞を巡って、エゾフクロウと競合している事例が北海道から報告されています。この報告では、エゾフクロウが使用していた樹洞にアライグマが住み着いていたことや、両種が類似した形状の樹洞を使用することが指摘されています。エゾフクロウが使用しなくなった後にアライグマがその樹洞に住み着くようになった可能性もありますが、類似した環境を必要とすることからアライグマが競合する在来種を追いやることが強く懸念されています。

アライグマの探し方

アライグマの足跡(撮影:a1518)

夜行性のアライグマを直接目視で発見する機会は限られます。しかし、アライグマは自ら痕跡を残していきます。この痕跡をヒントに、アライグマの侵入を察知することができます。最も容易に生息を確認できる痕跡として、足跡があげられます。

水辺を餌場として利用するアライグマは、河川や水路、水田等を移動するときに特徴的な足跡を残していきます。具体的には、人間の手を思わせるような、くっきりした5本指の足跡を残します。もし、アライグマの足跡を発見された際は、生き物報告へご報告をお願いします(写真の添付をお願いします)。

アライグマの爪痕(撮影:a0389)

こちらはアライグマの爪痕(真ん中に写る5本の線)です。特徴的な5本の爪痕が刻まれています。アライグマは屋根裏等に侵入する際に柱を登ります。その際に特徴的な5本指の爪痕が残るため、生息状況を把握する際の侵入サインとして活用されることがあります。

樹上で発見されたアライグマ(撮影:a0912)

夜間に姿が目視されることは少ないですが、生命のにぎわい調査団員によって木に登っている姿が報告された例があります。普段何気なく歩いている場所のすぐ近くに、実はアライグマがひっそりと身を潜めているかもしれません。

お願い

アライグマは気性の荒い生き物です。幼獣はとても可愛く、触ってみたいと思われるかもしれませんが絶対に素手で触らないでください。これはアライグマに噛まれる、または引っかかれることよって怪我をする恐れがあるだけでなく、人獣共通感染症(例えば、アライグマ回虫症、狂犬病*)を媒介するために人間の健康に悪影響を及ぼす恐れがあるためです。死体を見つけた際も、なるべく触れないようにしましょう。

*日本は狂犬病の洗浄国であり、「現在、狂犬病の発生のない国」になっています

調査団報告 2024年1月

1月分のデータ(Excel)は以下のリンクよりダウンロードできます

ただし、無許可で報告データを公開することを禁じます

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生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。

外来種対策:外国産の生きもの・外来生物、国内でも他地域の生きもの・移入生物は、野外に放さないでください。
飼育した生きものは責任をもって、最後まで飼いましょう。外来生物によって、日本の在来の生物(植物、動物)は、大きな影響を与えられています。国内、千葉県の生態系と生息する生きものを守るためには、知る、調べる、行動する/駆除するなどが必要になっています。

外来生物に関する情報は

環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。

  • 外来生物被害予防三原則
  • ~侵略的な外来生物(海外起源の外来種)による被害を予防するために
  • 1.入れない
  • ~悪影響を及ぼすかもしれない外来生物をむやみに日本に入れない
  • 2.捨てない
  • ~飼っている外来生物を野外に捨てない
  • 3.拡げない
  • ~野外にすでにいる外来生物は他地域に拡げない。
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