調査団報告2022年8月

水辺の身近な外来種 : アメリカザリガニ

アメリカザリガニ
撮影者 : a0708

アメリカザリガニは北アメリカを原産とする外来種です。1920年代に日本へ持ち込まれて以降、現在までに全ての都道府県に侵入し、私たちの身近な環境で見られる”水辺の生き物の代表”のような存在になってしまいました。しかし、在来の様々な水生植物や水生動物を捕食したり、イネの食害や畔の破壊といった農業被害を引き起こす侵略性があり、日本各地で防除対策が実施されています。最近では、このアメリカザリガニを特定外来生物へと指定する準備が進められており、アメリカザリガニを取り巻く環境が大きく変わろうとしています。

当センターでは、アメリカザリガニが特定外来生物へと指定されることを見越して、「生物多様性ちばニュースレター 74号」にて、アメリカザリガニが生態系に与える影響や特定外来生物への指定に向けた動きについて紹介しました。そこで、今回は、ニュースレターではあまり取り上げなかったアメリカザリガニの生態や千葉県内での生息状況について紹介します。

アメリカザリガニの生態と生息環境

浅瀬で見つかったアメリカザリガニ
撮影者 : a0034

アメリカザリガニは流れの緩やかな環境を好む生き物で、平野部を中心に水田、水路、池や河川等に生息しています。

アメリカザリガニは落ち葉、藻類や水草等の植物、水生昆虫、オタマジャクシや魚類等の水生動物など、様々な在来種を食べる雑食性の捕食者です。その一方で、アメリカザリガニには水中や水辺周辺に数多くの天敵が存在します。例えば、在来種のコサギやアオサギ等の水鳥類、外来種のコイ、ウシガエルやオオクチバスに多くの個体が捕食されます。

しかし、アメリカザリガニは一度の産卵で200から1000個もの卵を産むため、捕食にあってもなお多数の個体が食われずに生き残ります。それらの個体は1、2年ほどで成熟し、さらに数百個の卵を産むため、日本国内でどんどん数を増やしてしまいました。また、成熟後は、年に1度産卵しますが、ほぼ1年中抱卵個体が見られます。寿命は4、5年ほどとの報告もあり、これらの生態的な特徴もアメリカザリガニが各地で爆発的に増加した原因の1つと考えられます。

千葉県内での生息状況

千葉県内でのアメリカザリガニの生息状況を把握するために、当センターが千葉県生物多様性地理情報システムで管理している分布情報を整理し、分布図を作成しました。

アメリカザリガニの分布
赤色のセル(格子)はアメリカザリガニの分布が確認されている場所です。

地図から分かるように、アメリカザリガニの分布情報は県北部の平野部で多く、県南部の丘陵地には全く情報がないという結果となりました。これまで、アメリカザリガニが平野部で見られる外来種の代表としてあげられてきたにも関わらず、県内でのアメリカザリガニの分布情報は非常に少ないことが分かりました。

はたして、この分布図は千葉県内に生息するアメリカザリガニの実態を表しているのでしょうか?

センター職員が千葉県内で調査を行った際に見てきた印象として、アメリカザリガニはもっと広範囲に生息し、平野部の水田や水路であればどこにでも侵入しているように思えました。また、環境省が2022年に発行した「アメリカザリガニ対策の手引き」を見てみると、千葉県内の北西部と東部の一部にアメリカザリガニの分布地点がたくさん存在することが分かります。つまり、当センターが管理する情報をもとに作成したアメリカザリガニの分布図は、県内での生息状況の実態を表しているものではないと言えます。

この原因として、生命のにぎわい調査団の生き物報告では、アメリカザリガニを調査対象生物として選定していなかったため、アメリカザリガニの分布情報が少なかったものと考えられます。そこで、今後は調査対象生物の見直しを行っていく必要があると考えています。

また、別の原因として、アメリカザリガニが至る所で見られる普通種であり、分布情報といったデータがきちんと記録されにくかったことも考えられます(ありふれた生き物であり、記録するのが面倒など)。これは、希少種や分布拡大中の特定外来生物と比べて、アメリカザリガニの分布情報を収集することの重要性があまり認識されていなったからではないかと思われます。

アメリカザリガニ等の外来種の防除対策を検討する上で、外来種が県内のどこまで侵入し、どういった環境に定着しやすいかといった情報は根絶や低密度管理の成功可能性を左右する非常に重要な情報となります。そこで、今後は団員の皆さんと一緒になり、千葉県に侵入したアメリカザリガニの生息状況を明らかにしていきたいと思っておりますので、県内でアメリカザリガニを見かけた際は是非とも生命のにぎわい調査団の生き物報告までご報告ください。

お願い

アメリカザリガニを発見した際の情報提供に加えてのお願いです。現在、アメリカザリガニが特定外来生物に指定される見込みとなっております(なお、”特定外来生物への指定の決定やその指定時期”はまだ決まっておりません)。今後、もしアメリカザリガニが特定外来生物に指定されたとしても、学校や家庭等で飼われている個体はそのまま飼い続けることが可能となる形で法整備される見込みです(輸入、販売、野外への放出等は禁止されます)。そのため、現在飼育している個体は絶対に野外へ放出しないようお願いします。(また、くれぐれも脱走されないよう、ご注意ください)

参考文献

環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室. 2022. アメリカザリガニ対策の手引き.

豊田幸詞. 2019. 日本産 淡水性・汽水性 エビ・カニ図鑑. 緑書房.

調査団報告 2022年8月

*希少生物は保護上の理由により、発見場所を非表示にする場合があります(緯度 : 35、経度 : 140 の位置を表示する設定にしています)。

8月分のデータ(Excel)は以下のリンクよりダウンロードできます

ただし、無許可で報告データを公開することを禁じます

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団員の方で、住所/電話番号/メールアドレスの変更があった方は、事務局までお知らせください。

お問合せ先:生物多様性センター 調査団事務局 <monitor@bdcchiba.jp>

調査団員の皆様へ

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生き物を発見された際はまず、その生き物の写真を撮り、お手持ちの図鑑で調べてみてください。そして、「○○○」だと思うが特徴が少し違う、といったところまで調べていただけると助かります。
報告で種名が不明になっていた場合や、報告写真から判定して種名を変更した場合は、各月の報告一覧には、事務局で判定した種名を記入しています。
皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。

外来種対策:外国産の生きもの・外来生物、国内でも他地域の生きもの・移入生物は、野外に放さないでください。
飼育した生きものは責任をもって、最後まで飼いましょう。外来生物によって、日本の在来の生物(植物、動物)は、大きな影響を与えられています。国内、千葉県の生態系と生息する生きものを守るためには、知る、調べる、行動する/駆除するなどが必要になっています。

外来生物に関する情報は

環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。

  • 外来生物被害予防三原則
  • ~侵略的な外来生物(海外起源の外来種)による被害を予防するために
  • 1.入れない
  • ~悪影響を及ぼすかもしれない外来生物をむやみに日本に入れない
  • 2.捨てない
  • ~飼っている外来生物を野外に捨てない
  • 3.拡げない
  • ~野外にすでにいる外来生物は他地域に拡げない。
  • お問い合わせ先:
  • 千葉県生物多様性センター
    「生命(いのち)のにぎわい調査団」
  • 〒260-0852 千葉市中央区青葉町955-2
    千葉県中央博物館内
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