調査団報告2022年10月

見た目がそっくりなカエルたち : ムカシツチガエルとヌマガエル

今号は、姿形がそっくりで、種の判別に迷ってしまうことが多い2種のカエルについて紹介します。在来種のムカシツチガエルと国内外来種のヌマガエルです。

生命のにぎわい調査団では調査対象生物の1つとしてヌマガエルを選定し、団員からの生き物報告を募集してきました。千葉県内には、このヌマガエルに類似した在来種としてムカシツチガエルが生息しており、地域によってはどちらの種も見られることがあります。そのため、種を誤って判別してしまう恐れがあります。

そこで、今回は見た目がそっくりな2種のカエルについて、形態的な特徴や生態的な違いについて紹介していきます。

ムカシツチガエル Glandirana reliquia

ムカシツチガエルは、近年までツチガエル(Glandirana rugosa)と呼ばれていたカエルの中から、一部地域に生息するものが別種として分けられたカエルのことです。ツチガエルは本州、四国、九州や周辺島嶼にかけた日本国内の広範囲に生息するカエルと考えられてきましたが、最近の研究により、関東から東北太平洋側地域に生息するものは新種のムカシツチガエルに分けられました。つまり、これまで私たちがツチガエルと呼んでいた千葉県に生息するカエルは、実は新種のムカシツチガエルであったということになります。

ツチガエルとムカシツチガエルの外部形態には大きな違いが見られておらず(ただし、幼生の形態に独自の特徴が確認されている)、2種の生態的な違いに関する情報も整理されていないことから、今回は2種を区別せずに、図鑑や千葉県レッドデータブック等の文献で紹介されている”ツチガエル”の生態を紹介していきます。

ムカシツチガエル(背面)
(撮影者 : a1481)

背面の体色は暗灰色から灰褐色であり、表面は多数のイボに覆われています。この特徴から、通称「イボガエル」と呼ばれることがあります。

県内で見られる他のカエル類と異なり、幼生(オタマジャクシ)の多くは幼生のまま越冬する特徴があります。

体長4-5cmほどの大きさです。

ムカシツチガエル(腹面)
(撮影者 : a1481)

お腹には雲状の斑が一面に広がっています。この色合いがムカシツチガエルとヌマガエル(後述参照)を区別する際の大きなポイントとなります。

現在の千葉県では、主に房総丘陵の河川やその周辺を中心に生息しており、北総方面ではほとんど見られません。これは、もともと千葉県全域に生息していたが、大規模な圃場整備によって生息環境が悪化し、ムカシツチガエルが地域絶滅したためと考えられています。

ムカシツチガエルはオタマジャクシのまま越冬し、成体に変態した後も湧水のたまる場所で過ごすため、常に水が枯れない環境が必要です。そのため、水への依存度が高いカエルと言えます。

ムカシツチガエルは生命のにぎわい調査団の調査対象生物ではありませんが、千葉県レッドリストでは最重要保護生物(ランクA)に選定されている絶滅危惧種ですので、発見された際は是非とも生き物報告までご投稿ください。

なお、ムカシツチガエルの新種記載で指定されたタイプ標本は、千葉県君津市平田で捕獲された個体です。ですから、ムカシツチガエルは千葉県にゆかりのある生き物であるとも言えます。

*タイプ標本とは : 新種を記載するために指定された標本

ヌマガエル Fejervarya kawamurai

ヌマガエルは本州の中部以西、四国、九州、奄美群島、沖縄群島に分布するカエルですが、近年では関東地方まで侵入し、千葉県内でも生息範囲を拡大させています。ウシガエル等の国外外来種とは異なり、ヌマガエルは中部以西の広域に分布する在来種ではありますが、千葉県に生息するものはもともと生息していたものではなく人為的に移入されたものであるため、国内外来種となります。

ヌマガエル(背面)
(撮影者 : a1656)

ヌマガエルは暗灰色から灰褐色をした体長3-5cm程度のカエルで、水田や湿地、河川等に生息しています。ムカシツチガエルと比べて乾燥した環境でも生活できるようで、水辺から離れた場所で見かけることもあります。

背面に見られる小さな隆起やイボ、真っ白な腹面が特徴的です。背面に白い縦線(背中線)があるものや、背面が緑味を帯びた個体も見られます。

ヌマガエル(背面)
(撮影者 : a0963)

背面に背中線がくっきりと入った個体。

ヌマガエル(腹面)
(撮影者 : 1656)

ムカシツチガエルとは異なり、腹面は真っ白で模様もありません。ヌマガエルかムカシツチガエルかの判別に困った際は、一度捕まえてお腹の色や模様を確認してみてください。

現在、ヌマガエルは千葉県内で分布を拡大させている最中です。研究者らの調査により、千葉県内では利根川周辺、印旛沼流域の一部や房総半島南部(鋸南町や南房総市)を中心にヌマガエルが定着し、分布を拡大させていることがわかっています。

他の在来カエル類と競合したり、アマガエルや多くの在来昆虫を捕食することから、生物多様性への脅威も認識されています。

今後の分布拡大を食い止め、適切な防除対策を検討するためには、ヌマガエルの最新の分布情報を収集・蓄積する必要がありますので、県内でヌマガエルを見かけた際には、是非とも生き物報告まで情報提供をお願いします。

参考文献

千葉県. 2011. 千葉県の保護上重要な野生生物 ー千葉県レッドデータブックー 動物編 2011年改訂版.

関慎太郎・松井正文. 2021. 野外観察のための 日本産 両生類図鑑 第3版. 緑署房.

加賀山翔一. 2021. 千葉県の外来種「ヌマガエル」. 生命のにぎわいとつながり(生物多様性ちばニュースレター)71: 4. 千葉県自然保護課.

Shimada, T., Matsui, M., Ogata, M., Miura, I., Tange, M., Min, M. S., and Eto, K. 2022. Genetic and morphological variation analyses of Glandirana rugosa with description of a new species (Anura, Ranidae). Zootaxa 5174: 25-45.

調査団報告 2022年10月

*希少生物は保護上の理由により、発見場所を非表示にする場合があります(緯度 : 35、経度 : 140 の位置を表示する設定にしています)。

10月分のデータ(Excel)は以下のリンクよりダウンロードできます

ただし、無許可で報告データを公開することを禁じます

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皆さんからいただく報告の中には、希少な生物の発見、生息状況の新たな発見、活き活きとした生きものの営み等の写真が多くあり、事務局としても大変楽しませていただいています。

外来種対策:外国産の生きもの・外来生物、国内でも他地域の生きもの・移入生物は、野外に放さないでください。
飼育した生きものは責任をもって、最後まで飼いましょう。外来生物によって、日本の在来の生物(植物、動物)は、大きな影響を与えられています。国内、千葉県の生態系と生息する生きものを守るためには、知る、調べる、行動する/駆除するなどが必要になっています。

外来生物に関する情報は

環境省「 環境省HPー外来生物法のウェッブページ 」をご覧ください。

  • 外来生物被害予防三原則
  • ~侵略的な外来生物(海外起源の外来種)による被害を予防するために
  • 1.入れない
  • ~悪影響を及ぼすかもしれない外来生物をむやみに日本に入れない
  • 2.捨てない
  • ~飼っている外来生物を野外に捨てない
  • 3.拡げない
  • ~野外にすでにいる外来生物は他地域に拡げない。
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